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編集室水平線のニュースレター「ひとりから、長崎から」第19号(2026.2.2)
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こんにちは。編集室水平線の西浩孝です。
ニュースレター「ひとりから、長崎から」第19号をお届けします。
ほんとは月末配信なのですが、間に合いませんでした。
慰めてください。
(このレターは、PCで読まれることを想定しているので、スマートフォンでは
読みにくいかもしれません。あらかじめご了承ください。)
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【新着情報】西尾漠『極私的原子力用語辞典』、春に刊行予定! など
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原子力資料情報室共同代表で『はんげんぱつ新聞』前編集長の西尾漠さん『極
私的原子力用語辞典』の作業を進めています。
「後世に残る論文には載ることのない、インターネットで検索しても出てこな
いような『スクラップ情報』を、残しておきたい」。IAEA(あ)、核管理社会
(か)、再処理工場(さ)、脱原発(た)、中曽根札束予算(な)……100以上
の用語を扱う、ユーモアたっぷりの「読む辞典」。
これは類を見ない本だと思います。春に刊行予定です。よろしくお願いします!
*****
シリーズ「伊藤明彦の仕事」の第1巻『未来からの遺言 ある被爆者体験の伝
記/シナリオ 被爆太郎伝説』、増刷しました!
被爆80年の昨年、たくさんのメディアで取り上げられました。わたしが出かけ
るとき、子ども(小4)が「今日もテレビ出るの?」と言ったくらいです。
NHKで本書を原案としたドラマ『八月の声を運ぶ男』(主演:本木雅弘)も放
送されました。
https://www.web.nhk/tv/pl/series-tep-663796R2L1
このドラマはギャラクシー賞2025年8月度月間賞を受賞。以下のリンク先で
見られます(220円)。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2025149569SA000/?spg=P202500468800000
水平線のサイトでは、本書の内容の一部を公開中。おもしろいです。ぜひご覧
ください。
https://suiheisen2017.jp/product/3763/
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『来者の群像 大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』の著者・木村哲也さ
ん(国立ハンセン病資料館学芸員)の新刊が出ました!
『宮本常一 民俗学を超えて』岩波新書、248頁、1056円(税込)
https://www.iwanami.co.jp/book/b10154396.html
「生涯をかけて各地を旅し、人々の声に耳を傾けつづけた宮本常一。『忘れら
れた日本人』をはじめとする仕事は、従来の日本像を見直す民俗学の成果であ
るとともに、民俗学を超えて、多大な影響を与えてきた。網野善彦、司馬遼太
郎ら、宮本の言葉と行動を受けとめ独創的な仕事を成した人々を通して、今に
生きる宮本民俗学を考える」(岩波書店のホームページより)
目次をぜひご覧ください。「試し読み」もできます。
木村さんには、『『忘れられた日本人』の舞台を旅する 宮本常一の軌跡』
(河出文庫)という著書もあるので(わたしはこの本[単行本版]で木村さん
のことを知りました)、あわせてどうぞ!
*****
『非戦へ』『増補新版 言葉と戦争』の著者・藤井貞和さんが、ウェブサイト
「水牛のように」で詩の連載を続けています。
今月は「三題──シングル・LP・カセットテープ」。
https://suigyu.com/2026/02#post-11245
以下のリンク先から、これまでの作品すべてを読むことができます(このうち、
推敲されて詩集に収められたものも多いです)。
https://suigyu.com/category/noyouni/sadakazu_fujii
ねじめ正一さんはかつて、藤井さんは「地上にまぎれ込んだ二人の天使のうち
のひとり」だと書きました(もうひとりは長嶋茂雄)。伊藤比呂美さんによれ
ば、藤井さんは「水棲人間」です。なんだかよく分かりませんが、常人ではな
いということです。さあ読んで!
*****
『方向性詩篇』の著者であり親友である大谷良太さんが、がんばっています!
(なにを?全部!)
詩集を買って応援してあげてください!
(西脇順三郎賞、小熊秀雄賞、小野十三郎賞、最終候補作)
https://suiheisen2017.jp/product/708/
*****
オンラインマガジン『雨晴』を、ぼつぼつ更新しています。
この間に公開したのは、以下のとおりです。
●亀山亮『戦争』
第18回「クマと人間」
https://suiheisen2017.com/kameyama-ryo/3687/
●諸屋超子『くたばれ』
第18回「月落ちて烏鳴く」
https://suiheisen2017.com/moroya-choko/3702/
●姜湖宙『ストライク・ジャム』
第19回「トランクにはいるぶんだけのにもつを」
https://suiheisen2017.com/kang-hoju/3712/
オンラインマガジン『雨晴』は、アプリ「編集室 水平線」内で公開しています。
以下のページから、お手持ちのスマートフォンやタブレットに、インストール
をお願いします。
https://suiheisen2017.jp/appli/
『雨晴』はsuiheisen2017.comでも読むことができますが、アプリを入れると、
毎回プッシュ通知で更新情報が届きますので、おすすめです。
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【作業日誌+α】2025年12月〜2026年1月
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●12月1日(月)
北海道砂川市のいわた書店「一万円選書」。ずいぶん前に申し込んでいたが、
やっと順番が回ってきた。カルテを書いて返信。何が届くのか楽しみ。17時す
ぎ、長崎ケーブルメディア『なんでんカフェ』内のコーナー「専らさん」に出
演。荒俣宏『すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる』(プレジデント社)
と島本和彦『締切と闘え!』(ちくまプリマー新書)をおすすめの本として紹
介。帰り、アミュプラザのメトロ書店に偵察に行く。『伊藤明彦の仕事1』は
平積みをキープ。尾崎世界観『私語と』(河出文庫、2024)、岡本和宜編『有
吉佐和子ベスト・エッセイ』(ちくま文庫、2025)、雑誌『スピン』13号(20
25.9、まさかの330円!)を買う。『波』『図書』等、各社のPR誌もゲット。
レストランフロアに移動して「天神ホルモン」。駅前のクリスマスツリーがき
れいだった。
●12月4日(木)
くもり。午前、郵便局へ。夏から持ち越していた「編集室 水平線」の通帳名義
変更。年内に済ませることができて、すっきりした。勢いにのって、他の事務
仕事も全部終わらせる。昼、ビビンバ炒飯(冷凍)。『AERA』12月1日号で
福岡伸一が取り上げていた『サトシ・ナカモトはだれだ? 世界を変えたビッ
トコイン発明者の正体に迫る』(ベンジャミン・ウォレス著、小林啓倫訳、河
出書房新社、2025)は面白そう。森元斎さんからいつもの「謎の近況」メール
が届く。田中俊廣先生から新刊『水かげろう 原爆/戦争の文学 長崎から反照
することば』(書肆侃侃房)を頂いた。
●12月8日(月)
晴れ。朝9時、車で福岡に出発。12時、design POOLの北里俊明さん、田中智
子さん。ひさしぶりで、話に花が咲く。そのあと打ち合わせ。西尾漠『極私的
原子力用語辞典』の組み方を相談する。四六判で横組みはやったことがないの
で念入りに。いろいろ言っていたら、装丁までほぼ固まってしまった。対面は
いい。気づいたら18時半をまわっていた。夜の高速を走って22時ごろ帰宅。
『鈴木成一と本をつくる』(デビュー40周年記念本、カバー=水戸部功、小学
館)が届いていた。間違えて2冊注文していた。
●12月11日(木)
朝から校正の請負仕事に励む。国際投資法についての学術書。A5で約300ペー
ジ。引き合わせと素読み。締切に間に合うか微妙。夜、出張で長崎に来られた
筑摩書房のMさんと浜口町の「八州」で食事。楽しみだったので、昼すぎから
そわそわしていた。今回宿泊のトンデモホテルとトンデモ著者の話にめっちゃ
笑った。24時すぎにお別れ。もうバスがないので、タクシーで帰った。
●12月15日(月)
朝イチで長崎北郵便局のゆうゆう窓口に校正したゲラを持っていった。眠い。
Fさんから電話。土曜日の西日本新聞に載った「版元通信」を読んで、『来者
の群像』を図書館にリクエストしてくれたそう。昼、『Otona no Radio Alexan
dria』を聴いていたら、また「FM大好き☆ゆうひ」さん(☆が入るらしい)。
『Sunrise Station』から『Colors』まで、名前を聞かない日はほとんどない(佐
世保在住らしい)。『週刊読書人』12月12日号は「2025年の収穫アンケート」
(54人)、『図書新聞』12月20日号も「25年下半期読書アンケート」(79人)。
今年は新刊を出していないので、水平線の名前は当然ない。髪が伸びたので髪
を切った。
●12月18日(木)
佐賀配備の陸自オスプレイ、長崎県内でも夜間訓練を開始。亀山亮さんから次
回『雨晴』の原稿と写真が届く。ひさしぶりにAmazonから注文が来た。いくつ
かメールを書いているうちに午前終了。外を見ると晴れ。BSで映画『ノッティ
ングヒルの恋人』(1999)、配信でNHKスペシャル『ヒューマンエイジ 人間
の時代 第6集 出地球(しゅつちきゅう)』を観る。「宇宙移住」への取り組み
が本気すぎて怖かった。就寝前、森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』(岩波現
代文庫、2010/初版は1999)を読む。
●12月20日(土)
ローソンでコーヒー。いわた書店の「一万円選書」が届いたので、中を開ける。
9冊中、7冊は知らない本だった。うれしい。校正の請負仕事、今度は建築関
係。納期は1月13日。山本義隆の講演録「テクノファシズムと高度成長 戦
後80年を顧みて」(10・8山﨑博昭プロジェクト 秋の東京集会)を読む。台
風被害で大変な中、八丈島の清水あすかさんから『空の広場(カラノヒロバ)』
47号。懐かしいKさんに電話。
●12月22日(月)
午前、薬局で聞こえてきた会話。「朝がつらいということで、お薬を調整しま
したが、どうでしたか?」「うん…あんまり…生きてるってそういうことだか
ら…」。午後、BSで『マイ・インターン』(主演=ロバート・デニーロ/アン・
ハサウェイ、2015)を観る。べつに期待していなかったが、とても良かった。
夜、Eテレ『ハートネットTV』で「イタコ 中村タケ 93歳の日々」。日本で
最後の“全盲のイタコ”といわれる女性を記録。『ノアの50年 編集工房ノア50
周年記念冊子』(ぽかん編集室・霜月文庫、2025)をぱらぱらと。
●12月26日(金)
朝2℃。初雪。今月二度目の福岡へ。サービスエリアで肉うどんを食べる。夜、
里山社の清田麻衣子さんが開いたオルタナティブ・スペース「dongbaek(トン
ベク)」(「椿」の意味のハングル「冬柏(동백)」の表音アルファベット)
で、小森はるかさんの映画『春、阿賀の岸部にて』。新潟水俣病の被害者を支
援しつづけてきた旗野秀人さんを撮ったドキュメンタリー。冒頭から観入った。
上映後はトーク。小森さんは言葉もいい。祇園のホテルに一泊。
●12月31日(水)
大みそか。今年の出来事ベスト5。1位=NHK戦後80年ドラマ『八月の声を運
ぶ男』放映。同1位=伊藤公彦さんと対面。3位=木下大サーカス。4位=「水
曜日のカンパネラ」ライブ。5位=雲仙みかどホテル。本はジョゼ・サラマーゴ
『白の闇』。映像作品は佐々木昭一郎『四季 ユートピアノ』。音楽はあいみょ
ん『猫にジェラシー』(とくに「駅前喫茶ポプラ」)。伊藤明彦ではじまり、
伊藤明彦で終わった一年だった。
●2026年1月1日(木)
2026年。未来感がすごい。子どもにお年玉をあげる。よろこんで指パッチン。
年賀状が届く。こちらはまだ書いてない。今日も書けそうにない。高岡にLINE
電話。ひさしぶりに親戚や姪の顔を見る。ばあちゃん健在。還暦の叔父はホノ
ルルマラソンを完走したらしい(7時間)。テレビでお笑い番組。かつての染
之助・染太郎的な人や江戸家猫八が見たいのに出ない。新しい手帳に日記をつ
けはじめる。「100分de名著」サン=テグジュペリ『人間の大地』(野崎歓、
NHK出版、2025)の第1章を読んで寝た。
●1月3日(土)
3時半起床。5時50分から箱根駅伝の往路ダイジェスト(優勝は青山学院大学)
が放送されるので、早起きするつもりではあったが早すぎた。時間まで、たま
たまやっていた第34回FNSドキュメンタリー大賞『雲上の除雪隊 アルペン
ルートの春』(富山テレビ制作)を観る。総勢11人の作業員が立山に泊まり込
み、50日かけて雪をどかす。復路はリアルタイムで。青大総合優勝(大会新)。
米、ベネズエラの首都を攻撃。マドゥロ大統領を拘束。
●1月6日(火)
本橋成一さん死去。85歳。鎌田慧さんについていって、一度だけお目にかかっ
たことがある。AZBORNにウェブサイト管理費を振り込み。長崎新聞の連載、
山口謠司「長崎弁はおもしろか」(第37回)。「ばってん」「たい」「と?」。
言葉で相手を断罪しない。やさしく、少し距離を保ちながら、相手を見る。
「一言で言えば、長崎弁は、人が人でいるために選ばれてきた言葉なのです」。
『風の谷のナウシカ』全7巻読了。森元斎さんから「謎の近況」メールが届く。
悟りが開けたらしい。
●1月9日(金)
請負。再校と初校の引き合わせ。著者が入れた膨大な量の赤字(もうやめて)
と連日の死闘。ブルーハーツの「人にやさしく」が脳内で流れつづける。昼休
憩で新聞。「大崎事件」第五次再審請求。iPS細胞、機能を維持したままの凍
結保存に成功(神戸大のチーム)。『極私的原子力用語辞典』の初校PDF届く。
西尾さんに転送。夕方、デイリーヤマザキに行ってエアリアルとピザポテトを
購入。RaNi Musicに登場したラジオネーム「隙あらばスクワット」にセンスを
感じた。
●1月13日(火)
晴れ。だるい。二度寝。諸屋超子さんから『雨晴』の原稿が届く。いまの世の
中の気持ち悪さを独特な表現力で書くのがうまい。アーティゾン美術館「山城
知佳子×志賀理江子 漂着」展のカタログを注文。昼休憩で新聞。小学2年生
の投書。「3学きになって、がんばりたいことは二つあります。一つ目は、九九
をかんぺきにおぼえることです。けい算がはやくなればなんにでもやくだつか
らです。たとえば、おかしを数えることがはやくなるからです」。かわいい。午
後、北村毅さんの原稿を読む。圧巻。久米宏の訃報。米田綱路さんによる「追悼
本橋成一」(『図書新聞』2026年1月17日号)。
●1月16日(金)
外、霧。朝、『雨晴』の更新。諸屋さんに公開の連絡をする。昨日ガストで諸
屋さんとパートナーの山下さんと会っておしゃべりしたのが楽しかった(5時
間くらい)。姜湖宙さんから届いた原稿を読み、感想をメールで送る。午後、
4時ごろまで『極私的原子力用語辞典』初校のチェック。あたたかいので散歩
に出る。帰ってから強炭酸水を飲み、日本国憲法を読んだ。『webちくま』の
リレーエッセイ「本は本屋にある」第16回、大谷亨「『ジュンク堂』と呼ば
れた男」がおもしろかった。
●1月17日(土)
「カマル社」桑原茂夫さんのお別れ会に参加するため、朝一番の飛行機で東京
へ。1月9日に亡くなったと元秘書のさくらさんから連絡があり、急だったが
行くことにした。たくさんの人が来ていた。3.11憲法研究会以降、長崎に移住
して間もなくのころ、一緒に五島の福江島に行ったのが最後になった。2024年
に脳梗塞で倒れられたあと、どうされているのだろうと思っていたが、お見舞
いには行けず仕舞いだった。散会後、思潮社の人や何人かと高円寺の居酒屋に
入り、そのあと自分だけ先に抜けて、トンボ帰り。死化粧というのはなんとも
言えない。
●1月22日(木)
あらかじめ予定を立てていた東京出張に出かける。調布のリブマックスに2泊。
口コミが最悪で「訳あり大特価」も気になったが、前日に火災報知器が鳴った
という貼り紙に慄く以外はなんともなかった。17時に新宿の「らんぶる」で忘
日舎の伊藤幸太さんに会う。以前と営業時間が変わったらしく、18時に蛍の光
が流れ、放り出された。19時半、木村哲也さんと「食彩雲南 過橋米線 四谷三
丁目店」で合流。木村さんの新刊『宮本常一 民俗学を超えて』(岩波新書)
がちょうど発売になったところだったので、祝杯をあげ、中日ドラゴンズの話
題で盛り上がる。
●1月23日(金)
10時、中野坂上の原子力資料情報室。西尾漠さんとお会いするのは、たぶん
2012年以来。『極私的原子力用語辞典』初校ゲラの赤字を確認し、いくつか相
談、そのあと雑談。きのう山手線で見たNUMOの「地層処分」CMや柏崎刈
羽原発再稼働への怒りなどをぶちまける。昼、近くのラーメン屋で食べた味噌
ラーメンが異常にうまい。14時、藤井貞和先生をご自宅に訪ねる。お茶やコー
ヒーを飲みながら歓談。あいうえお順に並ぶ、家じゅうの蔵書を見せてもらっ
た。19時、新宿の「池林坊」で中央公論新社のOさんとHさん。一人でしゃ
べりまくってしまう。もう一軒行って、終電で帰る。すごい楽しかった。泥の
ように眠る。
●1月24日(土)
東京駅9時36分発のはやぶさ11号で仙台へ。初めて今野日出晴先生とお会い
する。伊藤明彦さんについて散々教えてもらいながら、ご挨拶に行けてなかっ
たのが気になっていたので、ようやくつかえがおりた。おいしい牛タンのお店
に連れていってもらう。長崎追悼平和祈念館のことなど。2時間の滞在。好きな
「萩の月」を買う時間もなく、羽田空港17時45分発。21時すぎ、自宅に帰り
着く。子どもにお土産のポケカを渡したが、欲しいのが出なかったらしい。
●1月27日(火)
13時半、NPO法人「被爆者の声」関係で弁護士相談。30分5500円で2時間、
2万2000円が飛んで行った。さようなら。
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【海岸線-17】立ち止まる読書
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1975年、大阪で生まれた文芸出版社・編集工房ノアが、昨年50周年を迎えま
した。あこがれの出版社のひとつです。
わたしは以前、「神保町の匠」というサイトで、社主・涸沢純平さんの著書
『遅れ時計の詩人 編集工房ノア著者追悼記』(2017年)の書評を書きました。
原稿データはどっかに行ったと思っていたのですが、探したら出てきたので、
ここに転載します。題は「立ち止まる読書」です。
*****
限られた時間のなかで、本を手に取る。バスを待つあいだ、ごはんの炊けるま
で、子どもが眠りについてから。そのとき、わたしが読書にもとめているのは、
楽しみとか息抜きとかではなく、たぶんもっと別のなにかである。
文芸書を主とする大阪の出版社「編集工房ノア」の名前を知らないわけではな
かった。自宅の本棚には、大野新『砂漠の椅子』、永瀬清子『光っている窓』、
鶴見俊輔『象の消えた動物園』などが見つかる。けれどもこの本、『遅れ時計
の詩人』についていえば、ふしぎな題名にひかれて買ったにすぎない。じっさ
い、本書に登場する人物──港野喜代子、黒瀬勝巳、清水正一、足立巻一、桑
島玄二、庄野英二、東秀三、天野忠、中石孝、杉山平一、塔和子──は何人か
を除いて名前さえ初めて聞く、わたしにとってまったく未知の人たちであった。
ところがどうだろう、冒頭の「落花さかん」「美しく力強い言葉」「人柄の稀
有」の3篇を読み終えたわたしは、すでにして涸沢純平の筆につかまえられて
いた。これらはすべて詩人・港野喜代子について書いており、港野の詩集『凍
り絵』(1976年)は、編集工房ノアの初めての作品なのであった。
〈横断歩道を渡りながら港野は振り向いて、私に何かを言った。いつも周囲に
遠慮のない大声の港野だったが、その声は騒音に消えて、聞こえなかった。横
断歩道を行く小柄な港野の身体に夕陽があたっていた。天気の良い日であった。
私は聞こえなかったけれど、手を振ってうなずいて、港野さんの言いたいこと
は全部わかっているというふうに合図を送った。歩道から呼びかけるのだから
大事なこみ入ったことではないだろう。用事であればまた明日電話がかかって
くる。電話のひんぱんな港野でもあった。私から掛けてもいい、と思い何気な
く手をあげて、別れたのだった。〉
出版して間もない詩集を持ち、宣伝のために新聞社を回ったこの日の深夜、港
野は一人住まいの家の風呂で、心臓マヒを起こし亡くなった。交流のあった司
馬遼太郎は訃報を聞いて、みずから進んで追悼文を書いた。最初、朝日新聞に
電話をして「載せてほしい」と頼んだが、港野は無名だからできないという。
この原稿は読売新聞が受けた。葬儀では息せき切って駆けつけた親友の永瀬清
子が、早口でほとばしるような弔詞を読んだ。この朗読はその場に居合わせた
鶴見俊輔を驚かせた。後日、港野を追悼する雑誌に目をとめた文芸評論家の平
野謙は、アカの他人であるこの人物に強い印象を受け、『新潮』の自身の連載
で3回にわたって彼女のことを取り上げた。涸沢は『凍り絵』から5年後、A5
判・函装・728頁の大冊『港野喜代子選集 詩・童話・エッセイ』を出し、帯
には4人の子どもを育てながら書いた港野の「私には切れ切れの時間の、切れ
切れの思い、切れ切れの詩しかなく、徒労を恐れては何もできなかった」とい
う文章を引いた。以上は、港野の死から15年がすぎて書かれた回想なのだが、
「中央に聞こえることすくなく大阪の街だけの詩人だったこの人」の魅力と駆
け足の人生を記して、涸沢が彼女にどれだけの敬愛をいだいて接していたか、
ぬくもりをもって伝えている。
〈さまざまな著者に出会った。たくさんの方々が亡くなられた。まず最初に出
会ったのは港野喜代子。私はこの人のことを母とも思った。十三の蒲鉾屋の詩
人・清水正一のことは、父以上に父と思った。桑島玄二、東秀三は、年の離れ
た、兄という思いであった。足立さんは、やさしいおおきな伯父さんであった。
天野さんは、肉親にたとえられない偉大な詩人であった。〉
親しく交わった著者との思い出がつづく。日曜の午後、清水正一の家に行くと、
ビールが出て、店の商品のちくわ、はんぺん、かまぼこが出て、最後はビフカ
ツといもサラダの付け合わせ、それで足りなければ、ピーナツ、おかきの山盛
りが出る。夕食の時間が過ぎると、今度は寿司。清水は行きつ戻りつ、えんえ
んと話す。「まだ、電車はあるでしょう」。ついつい長居をする。しかも、清
水宅の掛け時計は大幅に遅れている。3、4時間遅れているときもある。「泊
まっていったら。私ら朝早いけど」。清水は67歳まで自分の詩集を持たなかっ
た。出版の機がないではなかったが、娘の結婚のさい、詩集をまとめるより、
そのぶん箪笥の一棹でも持たせてやりたいと断念したことがあった。ツルゲー
ネフの「彼らも そう遠くまでは行っていまい」という言葉を、清水は好んだ。
詩を書くことにのみ専念できず、先をゆく詩人たちの背中を見つめなければな
らなかった清水の無念さを感じながら、涸沢は思う。「この大幅遅れの時計が
清水さんの詩であったのかも知れない」、「蒲鉾屋の時計を、詩人の時間にす
る時計であったのかも知れない」。通夜では長男があいさつで「清潔な一生で
あったと思います」と述べた。こうしてもう、わたしはこの本の虜となる。
いま、立ち止まることをうながす本は少ない。だが、遅れ時計が必要なのは、
詩人だけではない。本書は涸沢純平が還暦のときにまとめたものの、出版の決
心がつかず、校正刷りのままほこりをかぶっていたのだという。巻末の「編集
工房ノア略年史」が2006年までなのは、そのためだ。この本は、遅れ時計の時
間を刻んでいる。余韻を残さない本はさみしい。ためらいのない生きかたは遠
慮したい。知らない人とのあいだにさえ、感情は交わるのだ。本書とのめぐり
あいに感謝する。
(おわり)
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【本棚の本】川上雨季『光をつたって』ほか
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●川上雨季『光をつたって』思潮社、2025年
●清原悠編著、模索舎アーカイブズ委員会監修『自由への終わりなき模索 新
宿、ミニコミ・自主出版物取扱書店「模索舎」の半世紀』ころから、2025年
●田中俊廣『水かげろう 原爆/戦争の文学 長崎から反照することば』書肆
侃侃房、2025年
●萩野正昭『おもいで 未来』ボイジャー、2025年
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【『雨晴』から】
亀山亮『戦争』 第18回「クマと人間」
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北海道や東北では冬眠前のクマの出没騒ぎで日本中が「クマ」「クマ」「クマ」
と空前の大騒ぎになった。
殺されたクマたちのほとんどは食肉にされることもなくゴミとして処分されて
いく。
山熊田(新潟県村上市)のまたぎたちは自分たち人間もクマも山の生態系の中
では同列で豊かな山河がなければ自分たちは生きていけないということを深く
理解している。
彼らにとって生と死は表裏一体の存在でクマは害獣ではなく、山の神からの授
かり物として大切に扱われる。
身体性の消失は生物としての人間の生が消滅していくと同時に、他者への想像
力も欠如していく。
温暖化は地球の環境を大きく変えてしまった。僕の住んでいる八丈でも巨大台
風が上陸して大きな被害を受けた。
海水温の上昇で南方系の魚が増えて、海藻類は消滅し海の中の生態系も大きく
変わった。
そしてパンデミックの終焉から世界各地で国家間の大規模な戦争が始まった。
戦争は社会に分断を生み出し、古から為政者は「国の安全と平和を守る」とい
うパワーワードで人々を狡猾に敵と味方に色付けし、民族や国籍の違いを理由
に人間を記号化して憎悪が増殖されていく。
戦争が一度始まってしまうと、後戻りが絶対に不可能な壮絶な破壊と想像を超
えた殺し合いが始まる。
世界を覆うファシズムの再来によって、私たちは無自覚のままに臨界点を超え
て終焉へと向かっているのかもしれない。
(おわり)
……………………………………………………………………………………………
お読みいただき、どうもありがとうございました。
よろしければ、友人・知人のみなさまに、このニュースレターの存在を知らせ
ていただけましたら幸いです。
編集室 水平線(発行人=西 浩孝)
〒852-8065 長崎県長崎市横尾1丁目7-19
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……………………………………………………………………………………………
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第15号 https://suiheisen2017.jp/update/4074/
第16号 https://suiheisen2017.jp/update/4184/
第17号 https://suiheisen2017.jp/update/4239/
第18号 https://suiheisen2017.jp/update/4268/
