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編集室水平線のニュースレター「ひとりから、長崎から」第12号(2024.11.30)
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こんにちは。編集室水平線の西浩孝です。
ニュースレター「ひとりから、長崎から」第12号をお届けします。
昨日、「伊藤明彦の仕事」第1巻『未来からの遺言/被爆太郎伝説』の完成本
が届きました! うれしいです。
ただ、流通上のトラブルがあり、発売日は予定の12月10日からちょっと遅れ
て、下旬となってしまいました。申し訳ありません。
以下のページ、「本文公開」で第1章を読むことができます。まずはこちらを
ご覧いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします!
https://suiheisen2017.jp/product/3763/
(このレターは、PCで読まれることを想定しているので、スマートフォンでは
読みにくいかもしれません。あらかじめご了承ください。)
(↑これと↓これ、毎回書いていて恐縮ですが、新しく登録していただいた方
のためにそうしています。以前から読んでくださっている方には恐縮です。)
*****
ニュースレターの内容紹介です。
「新着情報」では、文字どおり、水平線および水平線の刊行物に関する最新の
情報をお知らせします。
「作業日誌+α」は、ニュースレターが隔月配信なので、その2か月のあいだ
にメモした短い記録をいくつか掲載します。「+α」とあるのは、編集作業と
は関係のない記述も含まれているためです。
「海岸線」は、編集人(わたし)による書きものです。そのときに書きたいこ
とを自由に書いていきます。今回のタイトルは「本が出来上がる前と後」。
「本棚の本」では、水平線(わたし)の本棚にある本を紹介します。これは、
フェイスブック、インスタグラムに投稿しているものと同じです。とくに感想
も解説も付けていないので、なんともそっけないコーナーです。
「『雨晴』から」は、オンラインマガジン『雨晴』(suiheisen2017.com)のなか
から、公開済みのひとつを選んで、一部または全部を掲載するものです。今回
は中里佳苗さんの連載『生きた「吹き溜まり」 「湘南プロジェクト」の記録』
の第25回「「吹き溜まり」の不定根 カンボジアの「うちら」(2)」です。
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それではどうぞご覧ください。
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【新着情報】シリーズ「伊藤明彦の仕事」、西日本新聞で紹介
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11月28日の西日本新聞に、シリーズ「伊藤明彦の仕事」の紹介記事(川口安子
記者)が掲載されました。
見出しは、「元長崎放送記者が録音 被爆者1000人の声「復刊」」。
〈被爆者千人以上の声を聞き取り録音したことで知られるジャーナリスト伊藤
明彦さん(1936〜2009)の絶版となっていた著作や音声作品を、長崎市の編集者
西浩孝さん(42)が新たな紙の書籍としてよみがえらせる。10年ほどかけてシ
リーズ「伊藤明彦の仕事」全6巻を刊行予定で、第1巻を12月10日に発売する。
西さんは「核の問題を頭ではなく心で感じ取れる作品だ」と語る。〉
〈西さんが伊藤さんの作品と出合ったのは東京の出版社を辞め長崎に移住した
ばかりだった17年。長崎市内の古書店で「未来からの遺言」を手に取ったのが
きっかけだった。1980年に書かれた同作は千人の録音を終えた伊藤さんが、最
も心に残った人物について書いたノンフィクション。長崎原爆の被爆者と名乗
る男性との出会いを通して、そもそも「被爆者になる」とはどういうことか、
原爆と人間の本質的な関係について思考を深めていく。〉
〈西さんは「読み始めてすぐ、こんなすごい本があったのかと心が震えた」と
振り返る。伊藤さんの著作は今、古書でも手に入りにくい。1人出版社「編集室
水平線」として活動する西さんは「伊藤さんが生涯をかけて残した『声』を一
人でも多くの人に届けたい」と意気込む。〉
以下の文章は、わたしが第1巻のカバー裏に書いたものです。
〈「この物語の主人公と、周辺の人々の本名をあかすことはできません。その
理由は、この文章を最後まで読んでくだされば、お判りいただけると思います。
いまから九年前収録され、ある場所に眠っている三巻の録音テープ。このテー
プのなりたちをめぐる事実を、自分の記憶が正確なうちに書きとめておくため
に。そしてもしできることなら、この文章を読んでくださるあなたにも、この
録音テープをめぐるふしぎを、私といっしょに考えていただくために。」(『未
来からの遺言』序文より)〉
〈被爆者の体験を録音し記録する作業に取り組んでいた著者は、長崎で被爆し
た吉野啓二さんの話に深い感銘を受ける一方で、それとは矛盾するある思いを
抱いた。吉野さんの語りを、自分はどのように受けとめたらよいのだろうか──。
被爆者という存在のありよう、原子爆弾と人間との関係の本質を問いかける『未
来からの遺言』と、これをもとに創作された『シナリオ 被爆太郎伝説』との合
本。〉
自信をもって、おすすめいたします。
https://suiheisen2017.jp/product/3763/
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オンラインマガジン『雨晴』を、だいたい週に1回のペースで更新しています。
この間に公開したのは、以下のとおりです。
●中里佳苗『生きた「吹き溜まり」 「湘南プロジェクト」の記録』
第24回〜第26回「「吹き溜まり」の不定根 カンボジアの「うちら」」
https://suiheisen2017.com/category/nakazato-kanae/page/3/
●諸屋超子『くたばれ』
第13回「剝き出しの生」
https://suiheisen2017.com/moroya-choko/3301/
●亀山亮『戦争』
第13回「山熊田」
https://suiheisen2017.com/kameyama-ryo/3303/
オンラインマガジン『雨晴』は、アプリ「編集室 水平線」内で公開しています。
以下のページから、お手持ちのスマートフォンやタブレットに、インストール
をお願いします。
https://suiheisen2017.jp/appli/
『雨晴』はsuiheisen2017.comでも読むことができますが、アプリを入れると、
毎回プッシュ通知で更新情報が届きますので、こちらを推奨しております。
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【作業日誌+α】2024年10月〜2024年11月
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●10月2日(水)
雨。風もあって、ちょっと寒い。午前、病院。採尿、採血。「血液がさらさら
になる薬とか飲んでいませんか」「はい」。いつものやりとり。注射器に吸わ
れていく自分の血をつくづくと見る。診察まで1時間ほど待った。帰宅後Mか
ら電話。1時間ほどしゃべる。午後、東大出版会からもらった校正仕事。ぶっ
通しでやる。夜、GERAで囲碁将棋の『情熱スリーポイント』を聴いているう
ちに眠った。
●10月6日(日)
「伊藤明彦の仕事」の装丁が決まった。すてき。遊びにきた子どもたちがスマ
ブラをやっている横でゲラに向かう。引き合わせ。OCRでのデータ化は一長一
短だと思う。「痘」→「疸」はやばかった。夕方、車でゆめタウンの近くに行っ
たら、明日からのおくんちのため一部通行止めで大渋滞。長崎ヴェルカの試合
帰りの人たちが歩いていく。晩ごはん、リンガーハットでやわらか太めん皿う
どんを頼む。いつも「麺は焼かなくていいのに」と思っていたので、新メニュー
の登場によろこびを感じた。
●10月12日(土)
午前、「伊藤明彦の仕事」の束見本2種(淡クリームキンマリ72.5kg、アルト
クリームマックス69kg)が届く。アルトクリームマックスのほうが良いが紙厚
が気になる。これでいいのか自信がない。週明け、北里さんに聞くしかない。
北郵便局から初校赤字ゲラを発送。プラットモール内のコメダ珈琲店で一休み
する。豆菓子うまい。バスで帰る。奥付のデータ作成に移る。疲労が蓄積して
いる。
●10月19日(土)
夜中、雷がすごかった。朝、くもり。昼ごろ強めの雨。休日なのに今日も仕事。
午前、再校ゲラ届く。昨日メールで来た見積書を検討。思いきって部数を決め
る。置き場所を確保するために、ぐちゃぐちゃのところを片付けなくてはいけ
ない。来週のイベント用に名刺を印刷。夜のオンラインゼミの課題図書『隷属
なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(ルトガー・
ブレグマン著、野中香方子訳、文藝春秋、2017)、21時半開始の10分まえにな
んとか読み終える。ゆーじん、プロジェクト炎上とかで欠席のLINE。はまちゃ
ん、ドバイから参加。
●10月25日(金)〜26日(土)
11時、時津港から長崎空港行きの船に乗る。JALチェックイン。手土産にカス
テラ巻き、五島うどんを購入。予定時刻より遅れて羽田に到着。16時半、東中
野のSpace & Cafe ポレポレ坐。『詩集 いのちの芽』(岩波文庫)刊行記念トー
クイベント「ハンセン病文学と出会う」。19時スタート。木村哲也さん(国立
ハンセン病資料館)、伊藤幸太さん(忘日舎)、藤井一乃さん(思潮社)とと
もに登壇。参加者40人ちょっと。『来者の群像』10冊以上売れ。伊藤さんの家
に泊めていただく。2時ごろまで話す。夜ぐっすり。朝食もごちそうになる。昼、
Hさん、Oさん、Yさんと御茶ノ水のサイゼリヤ。3時間ほど。懐かしかった。
22時すぎ帰宅。
●11月1日(金)
雨。10時前、Kさんが来てくれる。今日からフリーランス新法が施行だと教え
てくれた。ひさしぶりにオンラインマガジンの更新。忙しくて3年めのスケジュー
ルを立てるのが遅くなり、間が空いてしまった。「伊藤明彦の仕事1」、付き
物だけ先に入稿。本文は8日までに入稿すれば月内に納品可能とのこと。午後、
疲れて1時間ちょっと昼寝をしてしまった。日本近代文学館の秋季特別展「編
集者かく戦へり」の図録が届く。夜、寝るまえに夏葉社・島田潤一郎さんの『長
い読書』(みすず書房、2024)を読む。
●11月5日(火)
伊藤明彦さんの誕生日。
●11月7日(木)
夜中2時半に起きて三校の最終チェック続き。6時まえに北里さんに赤字PDF
を送付。シャワーのあと昼近くまで寝た。だるくてまた横になった。囲碁将棋
の『情熱スリーポイント』。JRCから急ぎの注文が入る。トイレの消臭剤を自
分に噴射してしまう。夕方、北里さんから念校PDF届く。明日、印刷所にデー
タ入稿。
●11月14日(木)
午後1時半、昭和堂Kさんが色校を届けてくれる。イメージどおりにいってい
ないので再校をお願いする。Amazonからの注文に対応。たまっていたメールに
返信。気力が出ない。燃え尽きか。
●11月21日(木)
10時、日産プリンス赤迫店。定期点検。無料サービスの自販機でコーヒーを押
したら、氷がジャラジャラ出てきて、ホットとアイスを間違えたことに気づき、
いらつく。だが久しぶりに飲んだアイスコーヒーはおいしかった。待っている
あいだ、平野啓一郎の『本心』(文春文庫、2023)を読む。文章がうまい。し
かもおもしろい。14時、西日本新聞の川口安子記者から取材を受ける。例によっ
てまとまりのない話をくりひろげ、17時半をまわった。最後に写真撮影。良い
記事を書いてもらえますように。
●11月26日(火)
ついにブルースカイを始めた。ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、
スレッズ、マストドン。宣伝のためとはいえ、つらい。
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【海岸線-10】本が出来上がる前と後
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まず原稿整理。つぎに組版。そして初校ゲラ。戻して再校ゲラ。あとは赤字し
だい。しっかり校正していけば、チェックすべき箇所は確実に減っていく。が、
問題はそこからだ。赤字が少ないことに不安になるのである。
ほんとうにもう間違いはないのか。人の名前は? 表の数字は? 見出しのス
タイルは? 目次は? 柱は? 奥付は? 疑心暗鬼に陥り、焦燥感にかられ
ながら、また最初のページから最後のページまで、一文一文に指を添えながら
読むことになる。
そのあと、ようやく安心がおとずれ、校了する。が、またしても問題がやって
くる。「ほんとうにもう間違いはなかったのか?」。印刷・製本されて手元に
届くのに2週間ほど。それまで毎晩のように悪夢をみる。苦しい日々がつづく。
本が完成して、やっと心が解放される。わきあがる喜び。なでなで。ぱらぱら。
触るのをしばらくはやめられない。その日はかならず枕元に置いて寝る。すや
すや。
本が出来たら、著者をはじめとする関係者のところに直接もっていって、手渡
す。いまは長崎にいるので、なかなか難しくなったが、東京で働いていたとき
は、可能な限りそうするようにしていた。で、打ち上げ。みなでたのしい時間
をすごす。
が、「まだ悪魔は去っていなかったのか!」ということもある。
一例。青木深『めぐりあうものたちの群像 戦後日本の米軍基地と音楽1945-
1958』(大月書店、2013)。
青木さんと二人で、本郷三丁目の中華料理店でお祝い。お酒も入っていい感じ。
家路に着く。そこで電車内の青木さんは「あれ?」と思った。米軍基地の所在
地を示す日本地図の、稚内の印が海の上にあるように見える。「飲みすぎたか
な」。
しかし翌日朝、それは酔いのせいではないことが判明したのである。即座にわ
たしに電話。「ああっ!」。天国から地獄。最終段階でレイヤーがずれたらし
い。結局そのページは差し替えることに。まあサントリー学芸賞を受賞しまし
たけど。
勉強になったこともある。同僚が編集したある本が出来上がってきた日のこと。
直後、わたしはたまたま誤字を見つけた。「あのさ、これ、間違ってるよ」。
近くにいた当時の社長が、あとでわたしを呼び出して言った。せっかく本が出
来ていちばんうれしいときに、水を差すな。落丁や乱丁のような致命的なもの
でなければ、あとで指摘してあげなさい。
たしかに自分が相手の立場であったなら、さぞがっかりするだろう。このとき
ひとつ、気遣いというものをおぼえた。
本づくりには、完成前後だけをとっても、こうしたドラマがあるのです。
(了)
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【本棚の本】荒川洋治『文学の空気のあるところ』 ほか
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●荒川洋治『文学の空気のあるところ』中公文庫、2024年
●『鎌田慧セレクション─現代の記録─1 冤罪を追う』皓星社、2024年
●日和聡子『其処』思潮社、2024年
●渡名喜庸哲『レヴィナス 顔の向こうに』青土社、2004年
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【『雨晴』から】
中里佳苗『生きた「吹き溜まり」 「湘南プロジェクト」の記録』
第25回「「吹き溜まり」の不定根 カンボジアの「うちら」(2)」
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湘南団地の少女たちのことを思い出すと、彼女らが自分たちを指す時に使って
いた、「うちら」という呼称が、鮮やかに耳に蘇ってくる。少女たち特有の甲
高い声で発せられる「うちら」は、特定のメンバーを指しているのではなく、
場面によって、その範囲と意味するところが変わるのが特徴でもあった。
10代の女子らしく、時々喧嘩しては疎遠になったり、突如、新しいメンバーと
急接近したりして、頻繁にメンバー構成を変化させていた。
喧嘩の原因としては、「〇〇ちゃんは男子に色目を使って節操がない」といっ
た思春期特有の些細なもめごとから、親同士の反目が発端となっていたことも
あった。母親同士が裁判で係争中の子どもたちが大喧嘩したこともあったし、
親の政治的な信条が異なる子どもたちが小競り合いをすることもあった。
「湘南プロジェクト」の大人たちは、時に、親世代の困苦が子どもたちの痛み
として表出してしまうことも理解していた。「君たちがこれからの時代を作っ
ていくのだから」と諭すこともあったが、大概は静かに見守っていた。表面的
な「仲直り」や「その場限り」の和解を、大人たちが子どもたちに強要するこ
とは無かった。支配的な文化とは異なる文化を持ち、日本社会の中で「外国人」
として生きている彼らの痛みを受け止め、痛みの表れ方を含めて、深く理解す
ることに努めた。
このような大人たちに見守られながら、思春期を過ごしていた「うちら」は、
大小の喧嘩や小競り合いを繰り返していた。表面上は、彼女らが「いつも仲良
し」であることはなかった。
しかし、彼女らは「手放し」で許し合うことができなかったとしても、少々乱
暴に抱擁するかのように、互いの存在を認めてもいた。距離をはかりながら、
「何かあった時」には心を配り、必要であれば互いの味方となった。喧嘩はす
るけれど、相手を執拗に陥れたり蔑んだりすることは無く、いつもゆるやかに
つながっていた。
(つづきはこちらから→https://suiheisen2017.com/nakazato-kanae/3274/)
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